
熊本市・上江津湖近郊。
約35坪の先細りする変形敷地に建つ「Shipな家」。
浸水への備え。
周辺道路からの騒音。
交差点に対する安全性。
そして、住宅地の中でどうプライバシーを守るか。
この住まいは、数々の厳しい条件を丁寧に読み解きながら、その制約を“建築の魅力”へと変換することで生まれました。
完成したのは、まるで湖畔に浮かび、未来へ向かって静かに進む「船」のような住まい。
建築家と施主の想いが重なり、「くまもとアートポリス推進賞選賞」を受賞した唯一無二の住宅です。
敷地面積:121.17㎡(約36坪)
延床面積: 123.42㎡(約37坪)
主要構造:木造2階建
受賞歴:くまもとアートポリス推進賞選賞

南側へ向かって先細りしていく敷地形状に対し、道路と水路という2本の軸を空間に取り込み、遠近感を活かした立体的な構成を計画しました。
さらに、床レベルを細やかに変化させることで、37坪という限られた延床面積からは想像できないほどの広がりと視線の抜けを実現しています。
外壁には、熊本城のエレメントを再構築した重厚感ある塗り壁を採用。
波を思わせる「大波仕上げ」が、湖畔の風景と呼応しながら、建物に豊かな表情を与えています。
また、街のランドマークとなる存在感を持ちながらも、窓配置やセットバックを緻密に調整することで、近隣への日照や夜間の光漏れ、交差点の安全性にも細やかに配慮。
地域環境と共存しながら、家族を優しく守る佇まいを目指しました。
エントランスドアを開けると、その先には光に満ちた「エントランステラス」が広がります。
GL+1,000mmの高さに設けられたこの場所へと導かれるアプローチは、まるで船に乗り込む瞬間のような高揚感を演出。
外の喧騒からゆるやかに切り替わり、心地よい静けさへと包み込まれていきます。
このテラスを中心に、家全体へ光と風が巡る計画とし、夏には打ち水による気化熱を利用して涼風を室内へ取り込むなど、日本の伝統的な知恵も取り入れています。
LDKでは、床座で過ごすことを好む奥様と、ソファでくつろぐことを好むご主人、それぞれの目線が自然に揃うよう床の高さを丁寧に調整しました。
造作されたローテーブルは、座卓としてだけでなく、畳スペースと一体化するベンチとしても機能し、限られた空間に多様な居場所を生み出しています。
さらに住まいの中には、対照的な2つの趣味室を計画しました。
外部へと緩やかにつながる、明るく開放的な空間。
大波仕上げの素材感に包まれながら、創作意欲を刺激するアトリエです。
大階段の裏側に設けられた、あえて暗さを残した“おこもり空間”。
静かに集中し、自分だけの時間に没頭できる隠れ家のような場所です。
主寝室では、計算された窓配置によって隣家からの視線を遮りながら、江津湖の景色だけを美しく切り取っています。
さらに、隠し階段を上った先には、空へと開かれた「物見台」を設置。
夏の夜空や花火大会を楽しめる、家族だけの特別なプライベートデッキです。
不整形地という厳しい条件を、豊かな空間体験へと変換した「Shipな家」。
光や風、視線、そして人の過ごし方まで丁寧にデザインされたこの住まいは、江津湖の風景とともに、家族の日常をゆったりと未来へ運んでいきます。