
「この土地で、本当に理想の家は建つのでしょうか。」
最初の現地調査で、お施主様が不安そうに口にされた言葉です。
計画地は、人気分譲地の一角にありながら、南側に建ち並ぶ住宅の影響で「日当たりが悪い」と敬遠され、6年以上も売れ残っていたひな壇状の土地でした。
しかし、私たちはその土地を丁寧に読み解く中で、周囲の建物の“わずかな隙間”に光と風の通り道が存在していることに着目。
その小さな可能性を軸に設計を重ねることで、暗いイメージを覆す、明るく開放的な平屋の住まいが完成しました。
それが、この『回遊の平家 in 合志』です。
敷地面積:232.69㎡(約70坪)
延床面積:101.27㎡(約31坪)
主要構造:木造平屋建
南側に並ぶ住宅の「二間の狭間」から差し込む光を最大限に活かすため、建物の高さや屋根形状を細かく調整しました。
さらに、北側の家庭菜園にもやさしく陽が届くよう、建物全体の高さを可能な限り抑えています。
玄関ポーチは、外からの視線を遮りながらも風を取り込める設計とし、玄関戸を開け放しても心地よい風が室内を通り抜けます。
また、外壁の一部にはテーパー形状を採用。
風の流れを自然に誘導することで、機械設備に頼りすぎない快適な室内環境を実現しました。
この家の大きな特徴は、「行き止まりのない回遊動線」です。
空間がゆるやかにつながっていきます。
室内には障子やガラス欄間を取り入れ、視線や光が奥まで抜ける設計としました。
さらに、天井に現れる垂木のラインを空間全体で連続させることで、実際の面積以上の奥行きと広がりを感じられる住まいとなっています。
新興住宅地では、周囲からの視線に悩まされるケースも少なくありません。
そこでこの住まいでは、ルーバーや斜めの袖壁を効果的に配置。
視線をやわらかく遮りながら、光と風はしっかり取り込めるよう工夫しています。
カーテンを閉め切らなくても、安心して過ごせる。
そんな「閉じながら開く」心地よさを大切にしました。
調理師である奥様のために設計したキッチンは、家全体を見渡せる“暮らしの司令塔”です。
LDKはもちろん、畳の間、フリールーム、そして2つの中庭まで視線が通り、料理をしながらでも家族の存在を自然に感じられます。
ただ家事をこなす場所ではなく、家族との会話や気配がつながる場所としてキッチンを計画しました。
玄関土間は、土足のまま使える多目的スペースとして設計しています。
大きな荷物の搬入や、多くの来客時にも柔軟に対応できる広さを確保。
将来のライフスタイルの変化にも対応できるよう、余白のある動線計画としました。
ひな壇特有の段差も、単なる制約ではなく、暮らしにリズムを生む要素として取り込んでいます。
浴室は、まるで露天風呂のように外とのつながりを感じられる空間に。
LDKに隣接する2つの中庭は、光や風だけでなく、暮らしに小さな変化や楽しさを与えてくれます。
さらに、キッチン横に設けた黒板壁は、家族の伝言板やお子様の勉強スペースとしても活躍。
日常の中に、少しだけ気分が上がる。
そんな“遊び心”を住まいの随所に散りばめました。
一般的にはデメリットとされる、
そうした条件を否定するのではなく、丁寧に読み解き、設計へと昇華していく。
『回遊の平家 in 合志』は、土地の個性をそのまま住まいの魅力へ変えていった実例です。
「この土地だからこそ、この家になった。」
そう思える唯一無二の住まいを実現しました。